
産婦人科の先生に聞く(後編)
つわり対策に注目のビタミンB6とは?
- 出産前に
- つわり対策
前回に引き続き、産婦人科医でマミーズクリニックちとせ院長の島田茂樹先生に、つわり対策として注目されるビタミンB6について、お話をうかがいました。
ビタミンB6とは

ビタミンB6はアミノ酸の代謝を助ける働きをもち、免疫機能の維持、皮膚の抵抗力の増進、赤血球のヘモグロビンの合成、神経伝達物質の合成などに関与しています。
アミノ酸はたんぱく質を構成する成分なので、たんぱく質の摂取量が増えるとビタミンB6の必要量も増えていきます。日本人の食事摂取基準2025年版では、1日当たりの推奨量として、18歳以上の女性は1.2㎎、妊婦は1.4㎎、授乳婦は1.5㎎を設定しています。
海外ではつわり対策にビタミンB6が使われている。でも日本では・・
海外ではつわりに対するビタミンB6の効果について古くから研究されており、アメリカ産科婦人科学会(ACOG)実践ガイドラインでは、ビタミンB6の補給を薬物療法の第一選択として強く推奨しているなど、実際に広く使われています。
また日本の「産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023」では、妊娠悪阻(おそ)の治療について「悪心の緩和に、ビタミンB6を投与する」と記載しています。
しかしながら、日本ではつわり症状とビタミンB6摂取との関連について調べた研究はほとんどありませんでした。そこで、つわりに対するビタミンB6の有効性を調べる試験を2018年に行いました。

ビタミンB6含有葉酸サプリメントの効果
当院に通院する妊婦20名に、ビタミンB6と葉酸を含むサプリメントを朝、昼、晩の1日3回、5日間摂取してもらいました。海外での先行研究を参考に、1日当たりのビタミンB6の摂取量は25mg(ピリドキシン塩酸塩として30㎎)、葉酸は400μgとしました。サプリメント摂取前日から摂取完了後4日目まで、吐き気、食欲、嘔吐回数、食事回数などを記録していただきました。吐き気と食欲はVAS(Visual analogue scale)法で評価しました。吐き気の場合、10cmの直線の左端を「吐き気は全くない」、右端を「最高に吐きたい」として、吐き気の位置をマークしてもらう方法です。左端からの距離を測定することで、吐き気の強さを評価することができます。

5日間のサプリメント摂取の結果、吐き気は20名中14名(70%)で改善し、摂取4日目、5日目には統計的に有意な改善が認められました(図2)。その他の指標では、食欲は11名(55%)で改善し、嘔吐症状があった8名のうち5名(63%)で嘔吐回数の減少が認められ(表)、QOLの向上が示唆されました。
なお吐き気が改善した14名のうち12名が、ビタミンB6の摂取をやめた後に吐き気が悪化していました。つわり症状があるうちは、ビタミンB6の摂取を続けるのがよいと思われます。


ビタミンB6の安全性
私たちの試験で有害な事象は確認されませんでした。
上で紹介したとおり海外ではつわり対策としてビタミンB6が広く使われていますが、母親はもちろん、胎児の成長に影響したという報告は見当たりません。ビタミンB6は水溶性ビタミンなので、余った分は体内に蓄積されずに尿と一緒に排泄されてしまいます。このため、大量かつ長期間にわたって摂取しなければ、過剰症の影響は現れません。とはいえ、不安がある場合は、かかりつけの産婦人科医に相談してください。

おわりに
妊娠に伴うつわりは、多くの妊婦さんが経験する症状ですが、適切な管理によって軽減することが可能です。ビタミンB6を含むサプリメントの活用は、その有効な選択肢の一つです。
何よりも大切なのは、妊婦さん自身が安心して「妊娠してよかった」と感じられる、健康で快適なマタニティライフを送ること。そのためには、つらい症状を一人で抱え込まず、信頼できるかかりつけの産婦人科医とよく相談することが不可欠です。専門家との連携のもと、ご自身に合った安全な方法を見つけ、つわりの時期を上手に乗り越えていきましょう。
【参考文献】
[1] 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 「産婦人科診療ガイドライン―産科編2023」. CQ201.
[2] Vutyavanich, T., Wongtra-ngan, S. & Ruangsri, R. American Journal of Obstetrics and Gynecology 173, 597-602 (1995).
[3] 山村淳一、島田茂樹. 第59回日本母性衛生学会学術集会口頭発表. 2018


島田 茂樹 先生
1994年に北海道大学医学部を卒業。富良野協会病院、旭川厚生病院、釧路日赤病院、倶知安厚生病院(医長)、国立函館病院(医長)、北海道大学病院産科助教などを経て、2010年にマミーズクリニックちとせを開院。女性たち一人ひとりが自分らしい納得したお産ができるよう、北の大地で日々見守っている。