母乳中のポリアミン(後編)
腸・免疫・アレルギーに関わる?
赤ちゃんを守るポリアミンのはたらき
- 出産前に
- 出産後に
- 母乳のヒミツ
- 母乳成分
前編では、ポリアミンとはどんな成分なのか、母乳にどれくらいの量のポリアミンが含まれるのかをご紹介しました。
後編では、母乳中のポリアミンがどのように働き、赤ちゃんの健やかな成長を支えているのかを見ていきます。
ポリアミンは赤ちゃんの体でどんな働きをしているのですか?
赤ちゃんは生まれてからの1年間で体重はおよそ3倍、身長はおよそ1.5倍になります。この時期の成長はヒトの一生の中でも最も著しく、体を形づくる細胞の数が飛躍的に増えます。前編で述べたように、ポリアミンは細胞の増殖を促す働きがあるので、赤ちゃんの身体が大きくなるためにはポリアミンがとても大切なのです。
さらに、生まれたばかりの赤ちゃんでは、腸や免疫の働きがまだ未熟です。
そんな赤ちゃんの機能の発達を支えているのが、母乳に含まれるポリアミンです。

ポリアミンは腸管の成熟化と発達を助ける
腸管(小腸、大腸)には食べたものを消化し栄養素や水分を吸収するだけでなく、病原体(ウイルスや病原菌)やアレルギーの原因となる未消化のたんぱく質などの異物が体内に侵入するのを防ぐ働きがあります。しかし、赤ちゃんでは消化機能が未熟であるうえ、腸管の細胞と細胞のすき間が大きく、異物が体内に侵入しやすい状態となっています。
ポリアミンは腸管細胞に働きかけて増殖と分化を促します。その結果、たんぱく質などの消化が促進されるほか、細胞同士をつなぐ構造が発達して結びつきが強くなり、異物が体内に侵入しにくい、丈夫な腸へと成熟していきます[1-2]。
免疫のバランスを整える
私たちの体の中では、異物に立ち向かい排除する「免疫」という仕組みがはたらいています。しかし、免疫の力は強ければ強いほどよいというものではなく、強すぎると自分自身も攻撃してしまい、炎症やアレルギーを引き起こすことがあります。必要なときにしっかり働き、落ち着くときにはちゃんとおさまる、“ちょうどいいバランス”がとても大切です。
ポリアミンには免疫細胞の働きを調整し、免疫のバランスを整える役割があります。たとえば、炎症を抑える働きを持つ制御性T細胞の機能を支えるほか、マクロファージや樹状細胞といった免疫の司令塔の働きを調節することで、必要以上の炎症を防ぐように働くと考えられています。こうしたポリアミンの働きによって、赤ちゃんの免疫機能は外からの刺激に過敏に反応しすぎることなく、一方で必要なときにはしっかり体を守れるようになります[3]。
ポリアミンは、アレルギーとも関係があるのですか?
はい、私たちの最新の研究で、母乳中のポリアミンが、赤ちゃんの食物アレルギー発症リスクの低下と関係している可能性があることが分かってきました[4]。
この研究では、日本のお母さんの産後1~2か月の母乳中のポリアミン濃度と、赤ちゃんが3歳までに食物アレルギーを発症したかどうかの関係を調べました。

食物アレルギーを発症しなかった赤ちゃんの母乳にはポリアミンが多い
左の図は、赤ちゃんが食物アレルギーを発症したグループと、発症しなかったグループに分けて、母乳中のポリアミン濃度を比較したものです。その結果、食物アレルギーを発症しなかったグループの母乳のポリアミン濃度が、食物アレルギーを発症したグループの母乳より、統計的に有意に高いことがわかりました[4]。

母乳中のポリアミン濃度が高いほど、赤ちゃんは食物アレルギーを発症しにくい
こちらの図は、母乳中のポリアミン濃度と食物アレルギー発症リスクとの関係を、オッズ比という指標で評価したものです。
オッズ比とは、ある出来事がどれくらい起こりやすいかを示す数値で、左の図では1より小さいほど食物アレルギーを発症しにくいことを意味します。
私たちの評価の結果、母乳中のポリアミン濃度が高いほど、赤ちゃんが食物アレルギーを発症しにくいことが示されました[4]。
これらの結果から、母乳中のポリアミンは腸管の発達と成熟化を助け、免疫のバランスを整えることで、赤ちゃんが食物アレルギーになりにくい体づくりを支えている可能性があると考えられます。
ママやパパが知っておきたい、ポリアミンの特徴を教えてください
ポリアミンは、母乳に豊富に含まれている成分で、赤ちゃんの腸管の発達や成熟化を助け、免疫のバランスを整える働きがあります。
私たちの最新の研究では、母乳中のポリアミンが赤ちゃんの食物アレルギーを起こしにくい体づくりにも関係している可能性が明らかになりました。
ポリアミンは赤ちゃんだけでなくお母さんの健康にも重要な成分です。体の中でつくられるほか、食事からも補給できるので、発酵食品や大豆食品の摂取をおすすめします。
【参考文献】
[1]:Nakamura A, Matsumoto M. Role of polyamines in intestinal mucosal barrier function. Semin Immunopathol. 2025 Jan 21;47(1):9.
[2]:Rao JN, Xiao L, Wang J. Polyamines in Gut Epithelial Renewal and Barrier Function. Physiology (Bethesda). 2020 Aug 12;35(5):328–337.
[3]:Mahalingam SS, Pandiyan P. Polyamines: Key Players in Immunometabolism and Immune Regulation. J Cell Immunol. 2024;6(5):196–208.
[4]:野尻恵資, 安枝武彦, 日暮聡志. 母乳中ポリアミン濃度と児の食物アレルギー発症との関連. 日本栄養・食糧学会. 2025.