
母乳の成分は日々変化する
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- 母乳成分
母乳の成分組成は一定ではありません。季節によっても、住んでいる地域によっても異なります。同じ人でも朝と夜で違いますし、さらに1回の授乳でも開始時と終了時では違っています。今回は出産後の日数によって母乳成分が変わる、そんなお話。
増える成分、減る成分

まず赤ちゃんの体重の変化を見てみましょう。約3kgで生まれた赤ちゃんは生後30日で約4kgになります。ここからぐいぐいと大きくなっていき、生後90日には生まれたときの約2倍の6kgに、1歳のお誕生日のころには生まれたときの3倍の9kgになります。このグラフに、出産後3-5日の量を100%とした母乳中のたんぱく質、脂質、乳糖、灰分(ミネラル)の変化を重ねてみます。たんぱく質と灰分(総ミネラル)は、出産後の日数経過に伴って減り、乳糖と脂肪は逆に増えていきます。とくに最初の60日までの変化が大きいことがわかります。
生まれたばかりの赤ちゃんは、いろんな代謝機能も、外敵と闘う免疫機能も未熟。この足りない機能を補うのが初期の母乳の役割です。生後の日数の経過にともなってこれら機能が発達してくると、母乳の役割が赤ちゃんに栄養を供給し身体を大きくすることに変わっていきます。このような赤ちゃんの成長、発育にあわせて、母乳の成分も変化していくんですね。
ミネラルの変化

前節で述べたように灰分(総ミネラル)は日数の経過とともに減っていきます。これはナトリウムやカリウム、塩素といった主要なミネラル成分が減っていくからです。微量ミネラルの鉄や銅、亜鉛も減っていきますが、そうじゃない成分もあります。それがカルシウム、マグネシウムとリン。これら3種類のミネラルは「骨」に多い成分なので、骨の形成に関連しているのかもしれません。


ビタミンの変化
脂溶性ビタミンのビタミンAとビタミンEは出産後の日数の経過とともに減っていき、ビタミンEは16-30日以降で、ビタミンAは61-120日以降で、3-5日の30%くらいになってしまいます。水溶性ビタミンのうちビタミンB2、ビタミンC、パントテン酸も減少しますが、末期乳での残存率はそれぞれ約75%、約85%、約65%で、ビタミンAやビタミンEに比べて変化の割合はずっと小さいです。ビタミンB12は31-120日で3-5日の50%まで減少した後増加します。



またビタミンB1、ナイアシン、葉酸は初期乳から急激に増加するという特徴的な変化を示します。
これらのビタミンはエネルギー産生やたんぱく質、核酸の合成などに関わっているので、赤ちゃんが活発に動くようになり、ぐんぐん大きくなるのを支えているものと思われます。
守る成分は初乳に多い

母乳には赤ちゃんを病気から守る様々な成分が含まれています。たとえば、インフルエンザウイルスや腸管出血性大腸菌O-157の感染を防ぐシアル酸、体内に侵入してきた異物を排除する免疫グロブリン(抗体)、静菌作用をもつラクトフェリンはどれも初乳で多く、次第に少なくなっていきます。生まれたばかりの赤ちゃんは自身の免疫機能がまだまだ未熟。母乳中のこういった成分が守ってくれているのです。
さらに、オリゴ糖はビフィズス菌の餌となりビフィズス菌主体の腸内菌叢を形成することで、いわゆる悪玉菌が増えるのを抑え、健康維持に寄与します。
成長を促す成分も初乳に多い
母乳には赤ちゃんの成長、発達を促す成分もいろいろ含まれています。たとえば脳神経系や視力の発達に重要なDHA。DHAは私たちの体内で必須脂肪酸であるα-リノレン酸から作られますが、生まれたばかりの赤ちゃんはこの働きが未熟で、必要な量のDHAを作れないといわれています。脂質当たりのDHAが初乳に多く出産後の日数経過に伴って減っていくのに対しα-リノレン酸が徐々に増えていくのは、赤ちゃん自身がDHAを作れるようになっていくからと考えられます。
ほかにも、脳神経系や視力に関連するタウリンや免疫機能に働きかけるオステオポンチンも出産後の日数経過にともなって減少していきます。これらも赤ちゃんの未熟な機能を補っているのです。


以上みてきたように母乳の成分は赤ちゃんの成長や発育にあわせて変化します。その時々に赤ちゃんが必要とする栄養や機能成分を過不足なく赤ちゃんに提供する、母乳って本当に神秘的です。