
赤ちゃんの健康に重要な栄養素 ビタミンD
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- ビタミンとはなんですか?
- ビタミンDにはどんな働きがありますか?
- ビタミンDが不足するとどんな心配がありますが?
- 赤ちゃんにとってのビタミンDの役割を教えてください。
- どれくらいの量のビタミンDを摂取すればいいですか。摂り過ぎもよくないのでしょうか?
- ビタミンDは母乳にどのくらい含まれていますか?
- 体内のビタミンD量には個人差がありますか?
- ビタミンDはミルクにどのくらい含まれていますか?
- ビタミンDを母乳研究の対象にした理由を教えてください。
- 母乳研究でどのようなことがわかりましたか?
- ビタミンDの量は季節によって差がありますか?
- ビタミンDが多い食品を教えてください。
- 母乳中のビタミンDを増やす方法はありますか?
- ビタミンDの重要性について、ママやパパに伝えたいことを教えてください。
ビタミンとはなんですか?
ちょっと難しく言うと、「正常な生理機能を営むために必要不可欠だが,体外から取り入れなければならない有機化合物のうち,必要量が微量であるものの総称」です。つまり、体づくりに必要な物質を作ったり、エネルギーを生み出す体内での化学反応=代謝に関与するなど、生きていくのに欠かすことができないもので、必要量を体内でつくれない微量成分です。ミネラルは含まれません。
現在、一般に13種類の化合物がビタミンと呼ばれており、水に溶ける水溶性ビタミン(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン)と、水に溶けず油に溶ける脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK)があります[1][2]。
これらビタミンのほとんどを、私たちは体内でつくることができません。したがって、食事からしっかりと摂取することが大切です。
ビタミンDにはどんな働きがありますか?

ビタミンDの主な働きは、骨の健康を維持することです。脂溶性ビタミンの一種であるビタミンDは、体内で合成できる数少ないビタミンで、ヒトでは主に紫外線を浴びることで皮膚で合成されますが、それだけでは足りないので、食事からの摂取が欠かせません。ビタミンDは肝臓と腎臓で代謝され、「活性型ビタミンD」となって生理機能を発揮します。[1]
活性型ビタミンDは、骨や歯の材料であるカルシウムやリンが腸で吸収されやすくなるよう働きかけます[3]。ビタミンDが足りないとカルシウムやリンがうまく吸収されず、骨がもろくなって骨粗しょう症や骨折のリスクが増加するという研究報告もあります[4]。また、ほかにも、がん、免疫が関連する病気、肥満、高血圧、感染症などにビタミンDが関連しているとの報告もあります[5]。
このようにビタミンDは私たちが健康に生活する上で欠かせない栄養素です。しかしながら、現在、世界の多くの国や地域においてビタミンDの不足や欠乏が問題となっています[6]。
ビタミンDが不足するとどんな心配がありますか?
ビタミンDは大人だけでなく、赤ちゃんの健康にも重要な栄養素です。赤ちゃんのビタミンD不足で問題となるのは、「くる病」のリスクです。くる病とは、骨の材料であるカルシウムやリンが不足し、骨がもろくなることで、骨の変形や痛みなどの症状があらわれる病気です。大人の場合は骨軟化症と呼ばれます。体内のビタミンD不足によって赤ちゃんがくる病になるリスクが増加しているとの報告が、世界中で増えています[7]。
そのほかにも、生後1年間のビタミンD摂取量が少ないと、将来1型糖尿病を発症する確率が増加するという報告もあります[8]。
赤ちゃんにとってのビタミンDの役割を教えてください。
ビタミンDの主な役割は、大人も赤ちゃんも同じです。体内のビタミンDが十分ではなくなると、骨の材料であるカルシウムやリンがうまく吸収できなくなり、骨の成長に影響することがあります。その結果、くる病の発症につながり[9]、O脚やX脚といった下肢の変形、成長障害(低身長)、低カルシウム血症といった症状がみられることもあります。
赤ちゃんのビタミンD不足については、母乳栄養との関係が指摘されています。赤ちゃんにとって母乳は理想的な栄養源ですが、ビタミンDに関しては母乳中に十分な量が含まれていない場合があることがわかっています。実際に、母乳栄養のみの赤ちゃんは粉ミルク・混合栄養の赤ちゃんと比較して、ビタミンDが不足・欠乏しやすいという研究結果も報告されています[10]。
どれくらいの量のビタミンDを摂取すればいいですか。摂り過ぎもよくないのでしょうか?
ビタミンDは主に不足が問題視されていますが、摂り過ぎ(過剰摂取)が続いても体に悪影響が出ることがわかっています。ビタミンDを過剰に摂取すると、カルシウムやリンの吸収が高まりすぎて、血中のカルシウム濃度が高くなる高カルシウム血症と、それに伴う吐き気、おう吐、筋力低下、精神神経障害、食欲不振、脱水症、多尿、腎臓結石、腎不全などを引き起こすことが報告されています[11]。
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、生後1年未満の赤ちゃんのビタミンD摂取目安量は一日あたり5µgと設定されています。耐容上限量、つまりこれ以上摂取しないほうがよいとされる最大量は一日あたり25µgと設定されています[3]。ちなみに、妊婦・授乳婦を含めた大人の摂取目安量は一日あたり8.5µg、耐容上限量は100 µgです[3]。鮭なら1切れ、マイワシやサンマならば1尾を食べれば、大人(18歳以上の男女)の一日のビタミンD摂取目安量はクリアできる計算です。
ビタミンD不足を気にするあまり、サプリメントなどによって大量に摂取してしまうことが続くと、かえって健康を損なうおそれがあるので注意しましょう。
ビタミンDは母乳にどのくらい含まれていますか?
母乳中のビタミンD濃度は研究によって異なっており、把握が難しい状況です。その理由としては、人種や測定時期、測定方法などさまざまな要因が影響していると考えられます[12]。
日本食品標準成分表2020年版(八訂)の、母乳中のビタミンD濃度は、100mLあたり0.3µgです[13]。これに当てはめて計算すると、赤ちゃんが一日750mLの母乳を飲む場合、2.25µgのビタミンDを摂取できることになります。
体内のビタミンD量には個人差がありますか?
体内のビタミンDの量には個人差があることがわかっています。体内のビタミンD含量は、「食事から摂取されたもの」と「紫外線を浴びることで合成されるもの」の合計量を反映しています[3]。
2019年4月から2020年3月に行われた、健康な日本人男女を対象にした研究では、血中25-ヒドロキシビタミンD*濃度が100 mL あたり0.6~2.9 µgの範囲で含まれていました[14]。このことから、最も少ない人と最も多い人では5倍近い差があることがわかります。
体内のビタミンD濃度は、個人差以外に人種や居住地域、食事内容などによっても異なるという報告があります[15]。
※ビタミンDの代謝物。ビタミンD欠乏症の指標として用いられる
ビタミンDはミルクにどのくらい含まれていますか?
国内メーカーの粉ミルクのビタミンD含量は、100mLあたり0.8~1.2μgです。
一方、母乳は個人差や季節差などがあり一概にはいえないものの、ひとつの目安として100 mL あたり0.3μg含まれていることが示されています[13]。つまり一般的に母乳は、粉ミルクと比較してビタミンD含有量が少ない傾向にあることがわかります。
実際に母乳のみで育った赤ちゃんは、粉ミルク・混合栄養の赤ちゃんと比較してビタミンD不足・欠乏になりやすいといった研究報告もあります[10]。
ビタミンDを母乳研究の対象にした理由を教えてください。
ビタミンDは、赤ちゃんの骨の成長と免疫系の発達にとって重要な栄養素です[16][17]。妊娠中または授乳中のママのビタミンD不足は、ママ自身の健康だけではなく、臍帯血(さいたいけつ)*や母乳を介して胎児や乳児の発育にも影響を与える可能性があるといわれています。
ここ数十年の間に、日本人女性のライフスタイルは大きく変化しました。ママのビタミンD不足に関連する変化としては、魚食から肉食主体に食事が変化したことや、健康や美容上の理由から日光を浴びるのを避けるようになったことが挙げられます[18][19]。
食事から摂取するビタミンDの量と、日光を浴びることによって体内で合成されるビタミンDの量、その両方が低下していることから、私たちは母乳に含まれるビタミンDも、過去から現代にかけて低下しているのではないかと仮説を立て、母乳研究の対象としました。
※妊娠中のお母さんと赤ちゃんを結ぶさい帯(へその緒)と、胎盤の中に含まれる血液
母乳研究でどのようなことがわかりましたか?

私たちは1960年から約30年ごとに日本の全国のお母さんから母乳検体を収集し、成分を詳細に分析するとともに、オリゴ糖、シアル酸、ヌクレオチドなど母乳に特徴的な成分の機能を調べてきました。
ビタミンDに関しては、私たちが保管している1989年と2016~2017年の母乳検体に含まれる濃度を測定、比較しました。その結果、1989年よりも2016~2017年の母乳中ビタミンD濃度が低い、すなわち、過去から現代にかけて日本人母乳のビタミンD濃度が低下していることが明らかとなりました[20]。
ビタミンDの量は季節によって差がありますか?
日本の東海地方に住む健康な男女を対象にした研究では、血中ビタミンD濃度は冬の終わり頃(3月)に1mLあたり15.1ngと最も低く、夏の終わり頃(9月)には1mLあたり31.6 ngと最も高い値を示しました[21]。この研究によると夏と冬とでは、体内のビタミンDの量が約2倍違うことになります。このように体内のビタミンD含量は、季節によって差があることが報告されています。
母乳に含まれるビタミンD含量について、個人差や人種や居住地域、食事内容などによって差が生じることは、「7.ビタミンDが含まれる量には個人差がありますか?」でも紹介した通りです。ビタミンDの量は季節によっても差があり、冬季よりも日光照射量の多い夏季に収集した母乳検体でビタミンD濃度が高い傾向にあることがわかっています[20]。
ビタミンDが多い食品を教えてください。
ビタミンDは、主に魚類に多く含まれています。鮭なら1切れ、マイワシやサンマなら1尾食べることで、大人(18歳以上の男女)の一日のビタミンD摂取目安量である8.5μgを十分に摂取することができます[13]。また、魚類ほど多くはありませんが、きのこ類、卵類、乳製品類にも含まれています。
1食あたりのビタミンD含有量が多い食品をまとめましたので、参考にしてください。

母乳中のビタミンDを増やす方法はありますか?
母乳に含まれるビタミンDは、母体のビタミンD含量が増えることで増加すると考えられています。母体のビタミンD含量を増やす方法は2つあります。1つは食事からビタミンDを摂取する方法、もう1つは適度に日光にあたる方法です。食事については「12.ビタミンDが多い食品はありますか。」で説明しましたので、ここでは日光にあたる方法について説明します。
適度な日光照射には体内のビタミンD合成を増やす効果が期待できるものの、一方で浴びすぎは日焼け、しわ、シミなどの原因となってしまいます。環境省によると、日光浴の際は日差しの強い時間帯を避け、日陰を利用しながら、衣服や帽子等で適度に防御する限り大きな問題はないとしています[22]。対策をしつつ、適度に日光にあたり、ビタミンDの合成を促していくとよいでしょう。
なお、国立環境研究所/地球環境研究センターが提供するビタミンD生成・紅斑紫外線量情報のモバイル用簡易サイトでは、適切な量のビタミンDを体内で生成するための日光照射時間の目安を調べることができます。参考にしてください。
ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報のモバイル用簡易サイト
ビタミンDの重要性について、ママやパパに伝えたいことを教えてください。

ビタミンDは、骨の健康を保ち、免疫機能を調節する重要な栄養素です。しかしながら最近の研究では、日本人の98%でビタミンDが不足していることが報告されています[14]。
母体のビタミンD不足は、赤ちゃんのビタミンD不足にもつながり、赤ちゃんの健康や発育にも影響を与える可能性があるといわれています。例えば、ビタミンDが不足または欠乏すると、骨の材料であるカルシウムやリンの吸収が低下します。その結果、くる病の発症につながり[9]、O脚やX脚といった下肢の変形、成長障害(低身長)、低カルシウム血症といった症状がみられる場合があります。
また、赤ちゃんの生後1年間のビタミンD摂取量が少ないと、将来的な1型糖尿病の発症率が増加することを示す報告もあります[8]。
赤ちゃんの健康のためにも、ビタミンDを積極的に摂取することが大切です。食事に魚やきのこ類などビタミンDを多く含む食品を取り入れたり、適度な日光を浴びたりして、ビタミンD不足を解消していきましょう。
【参考文献】
[1]:日本ビタミン学会
https://www.vitamin-society.jp/
[2]:e-ヘルスネット(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-027.html
[3]:厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020 年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書
[4]:Tanaka S, Kuroda T, Yamazaki Y, et al. Serum 25-hydroxyvitamin D below 25 ng/ mL is a risk factor for long bone fracture comparable to bone mineral density in Japanese postmenopausal women. J Bone Miner Metab 2013; 32: 514─23.
[5]:Giustina A.,et al. “Consensus statement from 2nd International Conference on Controversies in Vitamin D” Rev Endocr Metab Disord. 2020 Mar;21(1):89-116.
[6]:Palacios C., Gonzalez L. Is vitamin D deficiency a major global public health problem? J. Steroid. Biochem. Mol. Biol. 2014;144:138?145.
[7]:Dawodu A., Tsang R.C. Maternal vitamin D status: Effect on milk vitamin D content and vitamin D status of breastfeeding infants. Adv. Nutr. 2012;3:353?361.
[8]:Hypponen E, Laara E, Jarvelin M-R, Virtanen SM: Intake of vitamin D and risk of type 1 diabetes: a birth-cohort study. Lancet, 358 (2001), pp. 1500-1503
[9]:Prentice A. Nutritional rickets around the world. J Steroid Biochem Mol Biol. 2013 Jul;136:201-6. doi: 10.1016/j.jsbmb.2012.11.018. Epub 2012 Dec 7. PMID: 23220549.
[10]:Yorifuji J, Yorifuji T, Tachibana K, et al. Craniotabes in normal newborns: the earliest sign of subclinical vitamin D deficiency. The Journal of clinical endocrinology and metabolism. 2008;93(5):1784-8.
[11]:Vitamin D - Health Professional Fact Sheet (ODS)
https://ods.od.nih.gov/factsheets/VitaminD-HealthProfessional/#en21
[12]:Jones KS, Meadows SR, Koulman A. Quantification and reporting of vitamin D concentrations measured in human milk by LC-MS/MS. Front Nutr. 2023 Nov 16;10:1229445.
[13]:文部科学省:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
[14]:Miyamoto H, Kawakami D, Hanafusa N, et al. Determination of a Serum 25-Hydroxyvitamin D Reference Ranges in Japanese Adults Using Fully Automated Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry. J Nutr. 2023;153(4):1253-64.
[15]:Chang SW, Lee HC. Vitamin D and health - The missing vitamin in humans. Pediatr Neonatol. 2019 Jun;60(3):237-244. doi: 10.1016/j.pedneo.2019.04.007. Epub 2019 Apr 17. PMID: 31101452.
[16]:Vitamin D supplementation: Recommendations for Canadian mothers and infants. Paediatrics & child health. 2007;12(7):583-98.
[17]:Mailhot G, White JH. Vitamin D and Immunity in Infants and Children. Nutrients. 2020;12(5).
[18]:Koletzko B, Boey CC, Campoy C, et al. Current information and Asian perspectives on long-chain polyunsaturated fatty acids in pregnancy, lactation, and infancy: systematic review and practice recommendations from an early nutrition academy workshop. Annals of nutrition & metabolism. 2014;65(1):49-80.
[19]:Kanatani KT, Nakayama T, Adachi Y, et al. High frequency of vitamin D deficiency in current pregnant Japanese women associated with UV avoidance and hypo-vitamin D diet. PLoS One. 2019;14(3):e0213264.
[20]:Tsugawa N, Nishino M, Kuwabara A, et al. Comparison of Vitamin D and 25-Hydroxyvitamin D Concentrations in Human Breast Milk between 1989 and 2016-2017. Nutrients. 2021;13(2):573.
[21]:Ono, Y., et al., Seasonal changes of serum 25-hydroxyvitamin D and intact parathyroid hormone levels in a normal Japanese population, J. Bone Miner Metab., 23, 147-151, 2005.
[22]:環境省:「紫外線環境保健マニュアル2020」