
オステオポンチンについて
- 出産前に
- 出産後に
- 母乳成分
オステオポンチンとは何ですか?
オステオポンチンは、たんぱく質の一種です。骨や血液など、人体のあらゆる組織に存在しています。特に多く含んでいるのが臍帯血※1、赤ちゃん(乳児)の血液、そして母乳です。なかでも母乳に含まれるオステオポンチンの量が最も多いことがわかっていて、その働きに注目が集まっています。
一方、オステオポンチンは母乳に特有の成分ではありません。ウシのミルク(牛乳)にも含まれていることから、オステオポンチンは動物の種を超えて体内に存在する物質であることが確認されています[1]。
※1 臍帯血(さいたいけつ)
妊娠中のママと赤ちゃんを結ぶ臍帯=へその緒と胎盤の中に含まれる血液
オステオポンチンとはどのような意味ですか?
オステオポンチンは、ギリシャ語で「骨」を意味する“osteo-”(オステオ)と、ラテン語で「橋」を意味する"pontin"(ポンチン)という二つの言葉を組み合わせて名付けられました[2]。
オステオポンチンは当初、骨の形成に関与するタンパク質として発見・報告されたため、「細胞と骨を結びつける架け橋」という意味を込めて、このように命名されたそうです。
オステオポンチンは赤ちゃんに重要ですか?

平均値+−標準偏差
オステオポンチンは、臍帯血や赤ちゃん(乳児)の血液中に多く含まれており、その量は成人の血液中よりもはるかに多いことが報告されています(右のグラフ参照)。
母乳中に含まれるオステオポンチンの量はさらに多く、その濃度は成人の血液の100~1,000倍ほどという報告も。
このように、オステオポンチンは赤ちゃんの体内や栄養を与える組織に多く含まれることから、赤ちゃんの成長・発達に重要な成分であると考えられています[1]。
赤ちゃんにとってのオステオポンチンの役割を教えてください

生後まもない赤ちゃんのカラダは未熟で、感染に抵抗する力である免疫機能がまだ十分ではありません。
オステオポンチンは、そんな赤ちゃんの免疫機能の発達を助け、感染症などから身を守る役割を果たすと考えられています。
オステオポンチンの主な機能は、大きく以下の三つに分けることができます。
(1)免疫細胞に働きかけて免疫のバランスを調整する機能
免疫機能は強ければ強いほどよいというものでもなく、バランスがとれていることが大切です。オステオポンチンには免疫細胞に働きかけ、バランスを調整する機能があることがわかっています[3]。
(2)ウイルスの感染を防御する機能
ウイルスが感染を引き起こすには、レセプターとよばれる体内の組織と結びつく必要があります。オステオポンチンには、ウイルスよりも先にレセプターと結びついて、感染をブロックする働きがあります[4]。
(3)免疫細胞の働きを助ける機能
オステオポンチンは免疫細胞に働きかけたり、体内に侵入してきた細菌と結びついたりして、免疫細胞が細菌をやっつけやすくすることにも役立っています[5]。
上記の三つ以外にもオステオポンチンには、赤ちゃんの発熱の割合を低下させる働きや赤ちゃんの脳の発達を助ける働き、消化管機能の発達を助ける役割もあることが報告されています[6][7][8]。

発熱の割合が減少するのはすごいですね。発熱の割合が減ることについて、もう少し詳しく説明してください
赤ちゃんの発熱とオステオポンチンの関係については、以下の研究[6]で詳しく報告されています。この研究では健康な赤ちゃんを三つのグループに分けて、生まれてから6か月間の健康状態を定期的に調べました。
グループ1:一般的な粉ミルクで育児(オステオポンチンの配合なし)
グループ2:オステオポンチンを母乳に近い濃度まで配合した粉ミルクで育児
グループ3:母乳で育児

✴︎p<0.05
1〜6ヶ月までの罹患率を調査 n=60〜65/group
OPN添加乳:無添加乳に6.5mg/100mlになるようにOPNを添加したミルク
その結果、オステオポンチンを配合していない一般的な粉ミルクで育った赤ちゃんは、母乳で育った赤ちゃんに比べて、感染症など何らかの理由による発熱の発症率が高い、つまり発熱しやすいことがわかりました。
一方、オステオポンチンを母乳に近い濃度まで配合した粉ミルクで育った赤ちゃんは、一般的な粉ミルクよりも発熱の発症率が低下し、母乳で育った赤ちゃんの発症率に近くなる、つまり発熱しにくくなることが報告されています。
オステオポンチンは母乳にどのくらい含まれていますか?
私たちも参加した母乳に含まれるオステオポンチンの濃度を調べた研究[9]によると、オステオポンチンの濃度には、バラつきがあることがわかっています。
日本人、中国人、デンマーク人、韓国人、計629名のママから提供された母乳を調査したところ、オステオポンチン濃度の中央値は国によって異なり、最も低かったのはデンマーク(1mLあたり99.7μg)、最も高かったのは中国(1mLあたり266.2μg)で、2.5倍以上も差があることがわかりました。
ちなみに日本は4か国中2番目に低く、1mLあたり182.5μg、韓国は1mLあたり216.2μgでした。
なお、同じ研究によるとオステオポンチン濃度は、出産から時間がたつにつれ、低下していく可能性も示されています。


オステオポンチンが含まれる量には個人差がありますか?
母乳に含まれるオステオポンチンの量には、国によってバラつきがあることは先ほどお伝えした通りですが、同じ研究から個人差もあることがわかりました。
日本人、中国人、デンマーク人、韓国人、計629名のママから提供された母乳を調査した研究によると、オステオポンチン濃度が最も高かった人は母乳1mLあたり474.8μgのオステオポンチンを含んでいたのに対し、最も低かった人は1mLあたり2.2μgで、約200倍の個人差があることがわかりました。この濃度差の要因については、まだ明らかになっていません。
オステオポンチンは粉ミルクに含まれていますか?
国内の粉ミルクは、牛乳由来の原材料を用いて製造されています。牛乳に含まれるオステオポンチンの濃度は1Lあたり18 mgで、母乳に含まれるオステオポンチンの濃度(1Lあたり99.7~266.2 mg)の5分の1~10分の1程度であることが報告されています[1][9]。
そのため、一般的な粉ミルクにはオステオポンチンは、ほとんど含まれていないか、含まれていたとしても母乳より少ないと考えてよいでしょう。
オステオポンチンを母乳研究の対象にした理由を教えてください
オステオポンチンには、赤ちゃんの未熟な免疫機能の発達を助けるという報告がありますが、粉ミルクにはほとんど含まれていません。乳児栄養におけるオステオポンチンの重要性を明らかにするために、母乳研究の対象としました[6][9]。
母乳研究でどのようなことがわかりましたか?
最近の研究成果としては、過去から現代にかけて日本人母乳に含まれるオステオポンチン濃度が低下していることを明らかにしました[11]。なぜオステオポンチンの濃度が低下しているのか、その理由はまだ解明されていませんが、過去から現代にかけて日本人女性の食事や生活習慣が変化したこととの関連について、これからも研究を続けてまいります。
国によってオステオポンチンの濃度に差があるのは興味深いですね。どのような理由が考えられますか?
母乳に含まれるオステオポンチン濃度は、生活習慣によって変化することが報告されています[11]。具体的には、母体の喫煙習慣、BMI※2、出産方法、妊娠中の体重増加、授乳期間中のエネルギー摂取量などです。
このような生活習慣の違いが、国ごとの母乳中オステオポンチン濃度の違いにも影響を与えているものと考えられます。しかし、国ごとの違いが本当に生活習慣の影響によるものかどうか、詳しいことはまだ明らかになっていないのが現状です。今後研究が進むにつれ、解明されていくことが期待されます。
※2 Body Mass Index(体格指数)
[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出され、肥満や痩せ(低体重)などの判定などに用いられる
オステオポンチンはどんな食品に多く含まれていますか?
肉、魚、野菜など一般的な食品に含まれるオステオポンチンの量については、まだ十分な調査がされていません。今後研究が進むと、オステオポンチンを多く含む食品が見つかることもあるでしょう。
ですが、オステオポンチンは、ヒトやウシなどの動物の体液(乳や血液)に由来する成分です。そのことから考えると、一般的な食品にはほとんど含まれていない可能性が高いかもしれません。
母乳中のオステオポンチンを増やす方法はありますか?
母乳に含まれるオステオポンチンの濃度は、母体の喫煙習慣、BMI、出産方法、妊娠中の体重増加、授乳期間中のエネルギー摂取量などの生活習慣によって変化することが報告されています[11]。
しかし、現在わかっているのはそこまでで、これらの生活習慣がどのようにオステオポンチン濃度に影響するのか、生活習慣を変えることでオステオポンチンの量が増えたり減ったりするのかについては、まだ明らかになっていません。
今後研究が進めば、オステオポンチンの量を増やす方法が見つかるかもしれません。
ママやパパが知っておきたい、オステオポンチンの特徴を教えてください
オステオポンチンは、母乳に多く含まれており、赤ちゃんの発熱の割合を低下させたり、脳や消化管機能の発達を助けたりする役割もあることが報告されています[6][7][8]。
このようにオステオポンチンは、赤ちゃんが元気に過ごすために重要な成分です。
ですが、牛乳由来の原材料を用いて製造されている国内の粉ミルクのほとんどには、オステオポンチンが含まれていないか、含まれていたとしてもヒトの母乳よりだいぶ少ない量であることが考えられます[1]。
粉ミルクを選ぶ際には、オステオポンチンが含まれているかどうかをひとつのポイントにするのもよいかもしれませんね。
【参考文献】
[1]:Schack L, Lange A, Kelsen J, Agnholt J, Christensen B, Petersen TE, Sorensen ES. Considerable variation in the concentration of osteopontin in human milk, bovine milk, and infant formulas. J Dairy Sci. 2009 Nov;92(11):5378-85.
[2]:Oldberg A, Franzen A, Heinegard D. Cloning and sequence analysis of rat bone sialoprotein (osteopontin) cDNA reveals an Arg-Gly-Asp cell-binding sequence. Proc Natl Acad Sci U S A. 1986 Dec;83(23):8819-23.
[3]:Ashkar S, Weber GF, Panoutsakopoulou V, Sanchirico ME, Jansson M, Zawaideh S, Rittling SR, Denhardt DT, Glimcher MJ, Cantor H. Eta-1 (osteopontin): an early component of type-1 (cell-mediated) immunity. Science. 2000 Feb 4;287(5454):860-4.
[4]:稲垣 瑞穂, 金丸 義敬, ロタウイルス下痢症に対する牛乳タンパク質の利用性, ミルクサイエンス, 2011, 60巻, 1号, p.25-38.
[5]:Schack L, Stapulionis R, Christensen B, Kofod-Olsen E, Skov Sorensen UB, Vorup-Jensen T, Sorensen ES, Hollsberg P. Osteopontin enhances phagocytosis through a novel osteopontin receptor, the alphaXbeta2 integrin. J Immunol. 2009 Jun 1;182(11):6943-50.
[6]:Lonnerdal B, Kvistgaard AS, Peerson JM, Donovan SM, Peng YM. Growth, Nutrition, and Cytokine Response of Breast-fed Infants and Infants Fed Formula With Added Bovine Osteopontin. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2016 Apr;62(4):650-7.
[7]:Jiang R, Prell C, Lonnerdal B. Milk osteopontin promotes brain development by up-regulating osteopontin in the brain in early life. FASEB J. 2019 Feb;33(2):1681-1694.
[8]:Donovan SM, Monaco MH, Drnevich J, Kvistgaard AS, Hernell O, Lonnerdal B. Bovine osteopontin modifies the intestinal transcriptome of formula-fed infant rhesus monkeys to be more similar to those that were breastfed. J Nutr. 2014 Dec;144(12):1910-9.
[9]:Donovan SM, Monaco MH, Drnevich J, Kvistgaard AS, Hernell O, Lonnerdal B. Bovine osteopontin modifies the intestinal transcriptome of formula-fed infant rhesus monkeys to be more similar to those that were breastfed. J Nutr. 2014 Dec;144(12):1910-9.
[10]:Takahashi T, Ueno HM, Yamaide F, Nakano T, Shiko Y, Kawasaki Y, Mitsuishi C, Shimojo N. Comparison of 30 Cytokines in Human Breast Milk between 1989 and 2013 in Japan. Nutrients. 2023 Apr 1;15(7):1735.
[11]:Aksan A, Erdal I, Yalcin SS, Stein J, Samur G. Osteopontin Levels in Human Milk Are Related to Maternal Nutrition and Infant Health and Growth. Nutrients. 2021 Jul 31;13(8):2670.